カルチャー探訪 Vol.2:メーカー公認の逸脱——Brutale 1000 ABTに見るコラボの美学
MV AgustaがチューナーABTと組んだBrutale 1000の特別モデル。メーカー自身が「逸脱」を公認するコラボの面白さと、カスタムカルチャーとの境界線について、美学の視点から考える。
この記事の注目ポイント
- Brutale 1000 ABTはMV AgustaとABTの設計思想を重ね、130台限定で「メーカー公認の逸脱」を形にした。
- 公式コラボの価値はロゴの足し算ではなく、両者の技術と美学が一台の設計へ統合されているかで決まる。
MV AgustaがチューナーのABTと組んで、Brutale 1000の特別モデルを出した。このニュースを最初に見たとき、わたしの頭に浮かんだのはバイクのスペックじゃなくて、ファッション業界の景色だった。メゾンがストリートブランドと組む、あの瞬間の空気。格式の側が、あえて「逸脱」を招き入れる。Vol.2は、この「メーカー公認の逸脱」という現象について書いてみたい。創刊号で2026年のカスタムシーンを広く眺めたから、今回はその中でいちばん面白いと思っている一点にズームする形だね。
そもそもカスタムって、本来はメーカーの外側にある文化なの。工場出荷の状態を「正」とすれば、削って、換えて、塗り替えるカスタムは公式からの逸脱。その逸脱にこそ乗り手の美学が宿るから、わたしはカスタムバイクを見るのが好き。ところが近年、その構図が面白いことになってる。メーカー自身が、外部の作り手と組んで「公式の逸脱」を出すようになった。今回のBrutale 1000 ABTはその象徴だと思う。イタリアの工芸品みたいなバイクに、チューナーの手が公式に入る。純血主義の人からすれば眉をひそめる話かもしれないけど、わたしはこれ、文化が成熟したサインだと読んでるの。
ファッションの世界では、この手のコラボはとっくに定番になってる。ハイブランドとスケートカルチャーの協業が象徴だけど、あれが機能したのは、双方が相手の美学に敬意を払ったからだった。単なる相乗りのコラボは一目でバレて、すぐ飽きられる。バイクの世界も同じで、コラボの良し悪しは「作り手の署名が両方見えるか」で決まると思う。ベースの設計思想が透けて見えて、そこに別の作り手の解釈が重なる。二つの美学が喧嘩せずに交差したとき、公式カスタムは一台の批評になるの。逆に、ステッカーと限定色だけの「なんちゃって」は、どれだけ希少でも心が動かない。あの違い、言葉にしにくいけど、見ればわかるんだよね。
コラボの系譜を少しだけ遡っておくと、バイクと他ジャンルの「公認の交差」には歴史があるの。古くはレザーブランドやデニムメーカーとの協業で、ライダースジャケットがファッションアイコンになった時代。アーティストがタンクにペイントを施した限定車が、走る作品として扱われた例。近年はストリートウェアやスニーカーカルチャーとの相互乗り入れが増えて、バイクメーカーのロゴがカルチャー誌の表紙を飾ることも珍しくなくなった。この流れの面白さは、交差するたびに「バイクを知らない人」がバイクの美学に触れる入口が増えることなんだよね。わたし自身、もともとファッションの側からバイクカルチャーの視覚の強さに惹かれて越境してきた人間だから、入口が増えることの価値は身をもって知ってる。ただし、交差が増えるほど「本体の熱」が薄まるリスクも同時にある。名前だけ借りた企画は、どちらのファンの心も動かせない。だからこそ作り手の署名——誰が何を考えて作ったのかの痕跡——が見えるかどうかを、わたしはいつも最初に確かめるの。
そして、この流れがストリートのビルダーたちに何をもたらすかも考えたい。メーカーがコラボの相手を探すようになった世界では、ガレージの作り手にも公式の舞台へ上がる回路が生まれる。実際、カスタムイベントで見出されたビルダーがメーカーの仕事をする例は増えてるって、うちの梶村さんも現場で感じてるみたい。もちろん、公式に取り込まれた瞬間に牙を失う危険もある。逸脱が商品になった途端、逸脱じゃなくなるというパラドックス。だからわたしは、公認コラボと野生のカスタムの「あいだの緊張感」をこそ楽しみたい。両方が存在して、互いに刺激し合っている状態が、シーンとしていちばん健康だと思うから。次回は、その野生の側——いま気になっているストリート発のスタイルの話をするね。作った人の美学がそのまま形になったバイクの話を。
書きながら気づいたけど、わたしがコラボに惹かれるのは、たぶん「他者と出会って変わること」への憧れなんだと思う。ひとつの美学が別の美学と出会って、どちらのものでもない第三の何かが生まれる瞬間。バイクの世界には、その化学反応の舞台がまだたくさん残ってるの。それが嬉しいんだよね。次にどんな交差が生まれるのか、シーンの目撃者として楽しみに待ってるの。美しいものは、いつも境界線の上で生まれるんだから。
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