アジア二輪経済 第1回:インドが世界最大の二輪市場になった——その先に何があるか
年間2,200万台——インドが世界最大の二輪市場になった今、その先に何があるのか。ムンバイ出身のアジア市場専門家が数字と肌感覚で読み解く創刊号。
この記事の注目ポイント
- インドの二輪国内販売はFY2025-26に2,170万台へ達し、世界の二輪需要と商品戦略を左右する規模になった。
- 大量市場の中でもRoyal Enfieldの中排気量戦略や各社の輸出拡大は、価格以外の価値競争が進んだことを示す。
ムンバイで育ち、バイクは生活の一部でした。朝の通勤ラッシュで車の間を縫うように走るヒーロー・スプレンダー、道端で修理する露店の職人、旅の途中で声をかけてくれるロイヤルエンフィールド乗り——これらはすべて、わたしが育った街の日常の風景です。今は東京にいますが、インドや東南アジアのバイク市場が世界の中心になっていくのを肌で感じています。「アジア二輪経済」という連載を始めるにあたって、まず数字から入りましょう。2025年、インドの二輪市場の年間販売台数は約2,200万台を記録しました。これは世界全体の二輪市場のおよそ3分の1に相当します。中国、アメリカ、日本——いずれの市場も、インドの規模には及ばないんです。数字が示すのは、世界の二輪産業の「重心」が移動している、という事実です。
市場という視点では、インドの二輪市場は単純な「数の大きさ」だけで語れる市場ではありません。数字が示すのは、消費パターンの多様性と変化の速さです。インドや東南アジアでは、バイクは依然として「移動の基礎インフラ」としての役割が圧倒的に大きい。都市部でも農村部でも、バイクは人々の生活を支える手段です。しかしその中で、プレミアムセグメントの成長が顕著になっています。Royal Enfieldの国際的な成功は、その象徴的な事例ですね。かつて150〜200ccが主流だったインド市場に、350cc以上のプレミアムモデルが定着したという事実は、中間層の購買力向上と、バイクに対する価値観の変化を示しています。私がムンバイにいた頃、Royal Enfieldは「重くて古くさい」という評価を若者から受けていました。それが今や、都市の若いビジネスパーソンが選ぶプレミアムブランドになっている。市場という視点では、この変化は非常に示唆的です。
インドや東南アジアでは、EVの普及パターンも欧米や日本とは異なる形で進んでいます。インドでは2025年時点で電動スクーターの普及が急速に進んでおり、特に都市部の通勤用途では電動化のスピードが予想を上回っています。数字が示すのは、この変化が「補助金依存」ではなく「コスト競争力の実質的な改善」によって牽引されているということです。OlaElectricやAther Energyといった国内メーカーが量産コストを下げることに成功し、ガソリンスクーターとの価格差が縮まった。インドや東南アジアでは、消費者は価格に非常に敏感です。価格差が解消されれば、移行のスピードは驚くほど速い。市場という視点では、これは日本メーカーにとって脅威でもあり、協業の機会でもあります。ホンダ、スズキ、ヤマハはインドに大規模な生産拠点を持っており、現地EV市場への参入を加速しています。この競争の行方が、2026〜2030年の世界二輪産業の構造を大きく規定すると見ています。
日本からアジアの市場を見るとき、見落としがちな視点があります。それは「文化的文脈」です。数字だけ見ると、インド市場は「量の市場」に見える。でも実際には、ムンバイのライダーとチェンナイのライダーとでは、バイクに求めるものがまったく違います。北部農村と南部都市でも、バイクとの関係は大きく異なる。この多様性を無視して「インド市場」と一括りにすると、判断を誤る。私がムンバイ出身という背景から持っているのは、その文脈を感じる力だと自負しています。
この連載「アジア二輪経済」で私が伝えたいのは、インド・東南アジア・中国という巨大市場の動向が、世界の二輪産業の未来を決定づけているという事実です。日本のメーカーがどう動くか、欧州ブランドがアジア市場をどう見るか——その文脈を理解するためには、まず市場のデータと構造を知る必要があります。その視点を、データと肌感覚の両方を組み合わせてお伝えしていきますね。次回は東南アジア市場、特にインドネシアとベトナムの電動化動向を取り上げる予定です。数字が示すのは、この地域が次のフロンティアである、ということです。
もう一点、付け加えておきます。インドや東南アジアの市場データは、情報源によって数字が大きく異なることがあります。この連載では、メーカー公式の発表、業界団体の統計、現地メディアのレポートを複数参照し、数字の出典を明示するよう努めます。市場という視点では、データの質を担保することが、正確な理解への第一歩ですね。インドや東南アジアでは市場変化のスピードが速いため、昨年の数字が今年には陳腐化していることも珍しくありません。だからこそ定期的に更新しながら届けることに意味があると考えています。この市場の動向は、日本のライダーの皆さんが乗るバイクの未来にも直結しています。一緒に追いかけていきましょう。
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